こんにちは!
前回は電車の直流モーターが回転する仕組みについてお話ししました
その記事で、直流モーターでは回転数を上げていくと逆起電力が作用してしまい、回転数が上がりきらなくなってしまうとお伝えしました。そこで今回は
逆起電力ってどうやって小さくするの?
電車の速度をどうやって制御しているのか知りたいっ!
こんな疑問を解決していきます!
結論としては、電車では段階的に電気回路を切り替えることで速度を制御しています
- モーターにかかる電圧を上げる
- 逆起電力を小さくする
この2つがモーターの回転数を上げるポイントですので、頭に入れながら記事を読んでいただければと思います!
- 右ねじの法則とコイルについて
- 抵抗制御とは何か?
- 弱め界磁制御とは何か?
抵抗制御(弱め界磁)の電車の整備も8年間やっていた筆者が解説します!
それでは、よろしくお願いします!
予備知識:電気が磁界を作る!
右ネジの法則とは
導線(電気が流れる線)に電気を流すと、導線を取り巻くように円状の磁界が発生します
発生する磁界の磁力線の向きは電気が流れる向きに対して右回りになります
一般的に使用されるネジは右に回すと締め方向に進んで行くことから
- 電気が流れる向き = ネジが進む方向
- 発生する磁界の磁力線の向き = ネジを回す方向
に見立てて、この法則を右ネジの法則と言います。また発見者の名前から、アンペールの法則とも言います。
この時発生する磁界の強さは流れる電気の量(電流)に比例します
界磁(かいじ)とは
電気を流し磁力を得ることで出来る磁石の事を電磁石と言います
反対に電気を流さなくても磁力を持ち続けている磁石を永久磁石と言い、電磁石と永久磁石のように磁界を作るものをまとめて界磁(かいじ)と言います
電磁石は永久磁石と異なり、流す電気の量をコントロールすることによって磁力を調整できるのが特徴になります
しかし、導線1本では大きな磁力を得ることができないので、導線を巻いて作るコイルを使用します
コイルの磁界
導線をループ状に巻いていくと、どの部分の磁力線も中央を向くことになり、中央では強い磁界が発生します
これを合成磁界と言います。コイルの巻き数が多いほど、中央にたくさんの磁束が通り、より強い合成磁界が出来上がります
またコイルの中心に鉄心を通すことでより磁束が通りやすくなり(磁束密度が増す)、強い磁界が発生します
磁束密度φを表す式は
$φ =\frac{N × I}{2πr}$
N:コイルの巻き数、I:コイルに流す電流[A]
で表されるため
- コイルの巻き数Nを増やす
- コイルに流す電流Iを増やす
ことでより強力な磁力を得ることが出来ます
以上が今回の予備知識になります
それでは、予備知識を踏まえたうえで電車の速度を制御する方法について考えていきましょう!
電車の速度の制御
直流モーターの回転数の上げ方
電車の速度=モーターの回転数になるので、電車の速度を上げたい場合はモーターの回転数を上げることになります
モーターの回転数はモーターにかかる電圧に比例します
前回お話した逆起電力のことと合わせて、モーターの回転数を上げるには
- モーターにかかる電圧を上げる
- 逆起電力を下げる
ことが重要です。まずはどうやってモーターにかかる電圧を上げていくのかを考えていきましょう!
モーターの電圧を上げる:抵抗制御とは
モーターにかかる電圧をコントロールするために、電気回路にはたくさんの抵抗(電気の流れを妨げるもの)が設置してあります
走り始めの時はモーターの回転数が高くなくて良いので、高い電圧をかける必要がありません
そのため、抵抗をたくさん通す回路にしてモーターにかかる電圧を抑えています
徐々にスイッチを入れていき、抵抗を通らない回路を構成していくことでモーターにかかる電圧は増えていきます
電気は流れやすい方を流れるという特徴があり、これを短絡(ショート)といいます
このようにスイッチを入れて短絡させていくことでモーターにかかる電圧を制御する方法を抵抗制御と言います
以下のような回路をイメージしてください
- はじめは全ての抵抗を通る
- スイッチ1(S1)が入り、抵抗を一つ短絡させる
- スイッチ2(S2)が入り、抵抗を二つ短絡させる
- スイッチ3(S3)が入り、抵抗を全て短絡させる
このように通る抵抗の数が減っていくほどモーターの電圧が上がっていく制御を行っています。しかしすべての抵抗を短絡してしまうと、電圧は限界を迎えてしまいます
ではこれ以上電圧は上げることができないのか?次は直列回路と並列回路について考えていきましょう!
※抵抗に関してはこちらの記事で詳しくお話していますので、分からない方はぜひご参照ください
モーターの電圧をさらに上げる!:直並列制御とは
例えばモーターが二つ直列でつながっている場合、かかる電圧は半分ずつになりますが
モーターを並列で繋げると、電圧は半分にならずに同じ電圧が両方にかかります
この仕組みを利用して、モーターを並列に繋ぎ変えて電圧を上げる方法を直並列制御と言います
豆電球で例えると
- 直列に豆電球を2個つないだ場合は明るさが半分
- 並列に豆電球を2個つないだ場合は明るさは1つだけの時と同じ
以下のような回路をイメージしてください
- スイッチ4(S4)が入り、スイッチ5(S5)と6(S6)は切れている
- スイッチ4(S4)が切れて、スイッチ5(S5)と6(S6)が入る
- モーターは並列繋ぎに切り替わる
実際にはいきなり直列から並列に切り替えると大きく電圧が上がってしまうため、抵抗制御と組み合わせながら徐々に電圧を上げていきます
ここまでやったらもう電源電圧を上げることはできないので、次は逆起電力を抑えること考えていきましょう!
逆起電力を抑える!弱め界磁制御とは
磁束密度が一定の場合、モーターの回転数が上がるほど逆起電力が大きくなってしまい電源電圧とつりあってしまうことは前回の記事でお話しました
その際の逆起電力Ebを表す式は
$Eb = φ × N$
φ:磁束密度、N:モーターの回転数
でした。なので磁束密度φを減らしてあげれば逆起電力を抑えて回転数を上げることが出来ます!
さきほどの予備知識で磁束密度φはコイルの巻き数と流す電流に左右されるということだったので
コイルの巻き数は走行中に変更できないので、流す電流の量を減らしていきます!
ではどうやって減らしていくかの前に、電車のモーターの磁石の部分(界磁)は電磁石で出来ているということを知っておきましょう!
ちなみにおもちゃのモーターでは永久磁石を使用していますね!
一般にモーターの回転原理を説明する際は永久磁石が書かれていますが、実際の電車のモーターの回路は以下のようなイメージになります!
コイルと電磁石が直列につながっていて、同じ電源で1つのモーターが作られています。電磁石は右ネジの法則にしたがって磁界の向きが決まります
ここで電磁石に対して並列に抵抗をつなぎます
そうすると電気は電磁石と抵抗の両方を流れることで電磁石に流れる電気の量を減らすことが出来ます!
以下のような回路をイメージしてください
- はじめは抵抗を通らずに電気は流れている
- スイッチ7(S7)を入れることで電磁石と抵抗は並列になり、電磁石に流れる電気の量が減る
- 磁束密度が減り、逆起電力が小さくなる
実際にはたくさんの抵抗がありますが、電磁石(界磁)に流れる電気の量を徐々に減らし、磁束を弱めることで逆起電力を抑えて回転数を上げていく方法を弱め界磁制御と言います
なのでハンドルを1ノッチ、2ノッチ・・・と入れて加速していくにつれて
制御装置では回路が切替えられていき、速度が制御されていることになります!
まとめ:モーターの仕組みを理解して、電車の速度の制御方法を理解しよう!
今回は直流モーターを使用した電車の速度制御の方法について解説しましたが、いかがでしたでしょか?
- 抵抗制御:抵抗を短絡していくことでモーターにかかる電圧を上げる
- 直並列制御:モーターを直列から並列につなぎ変えて電圧を上げる
- 弱め界磁制御:電磁石(界磁)に流れる電気を減らして逆起電力を抑える
以上が制御方法になります!
ちなみに整備においては制御が正しく切り替わるかを検査しなければならないので、中身を知らないと判断できないんですね。
私も覚えるまで苦労しました…
実はこの抵抗制御は古いタイプの電車で採用されていますが、電気を抵抗で消費してしまうことがもったいないため、段々と使われなくなっており交流モーターが多く採用されているのが現状です。
現在の電車の主流となっている交流モーターを制御するための、VVVFインバータの仕組みについては別の記事で解説しております!
今回紹介した抵抗制御の電車もコアなファンがおり、加速感や音を楽しむ方も多いみたいです
みなさんもぜひ電車の加速力や音に注目してみてはいかがでしょうか?
今回の記事を作成するにあたり、参考にした資料はこちらになります!もっと詳しく知りたいという方はぜひご覧になってくださいね!
もう引退してしまいましたが、加速時に音楽を奏でる「歌う電車」というのもあったんですよ♪
歌う電車についてはこちらの記事でお話しています
電車の動く仕組みの理解の助けになれば幸いです!ぜひ他の仕組みについても学んでみてくださいね!
それでは、ありがとうございました!