こんにちは!今回は鉄道の安全を守るための装置、ATC「自動列車制御装置」についてお話しします!
電車ってぶつかることないの?
ATCって聞くけど、どんな装置?
こんな疑問にお答えします!
ATCはAutomatic Train Control deviceの略で、日本語では「自動列車制御装置」と言います。簡単に言うと、鉄道車両が制限速度を自動的に保って走行するための保安装置になります。鉄道の安全を守るためには非常に重要な装置です。
そんなATCについて、電車整備士歴10年の筆者が解説します!
- ATCが開発された歴史について
- ATCの仕組みとは?
- 進化版ATC「D-ATC」とは?
- ATCは新幹線や山手線では必要不可欠な装置!
ATCについて詳しくなっちゃおう!
それでは、よろしくお願いします!
鉄道にATCが開発された歴史
まずはATCはどのような経緯で開発されることとなったのか。鉄道の運行の仕組みとともに見ていきましょう!
ATC開発前の鉄道の運行スタイル
鉄道では運転士さんが線路脇に設置された信号機を見ながら
- 進んでよいか?
- 制限速度はなんキロか?
を目で見て確認しながら運転を行っていました。この信号システムのデメリットとしては
- 運転士さんの注意力に依存してしまう
- 信号機が見にくいところでの運転が大変
といったことがありました。日本で新幹線の開発を進めていた際に、高速で走行する新幹線から信号機を目で見て確認するのは不可能といったことが問題点となり、自動で制限速度を守ってくれるATCが開発されることとなりました。
ATCが初めて導入されたのは営団地下鉄日比谷線!
1961(昭和36)年、営団地下鉄日比谷線に地上信号式のATCが国内で初めて導入されました。当時の車両は3000系といって、日比谷線の開業とともに導入された車両でした。(東京メトロHP「日比谷線の歩み」より)
しかし、日比谷線に導入されたATCは地上信号方式であったりと、従来の信号システムのデメリットを完全に払拭したものではなかったそうです。
本格的なATCが開発されたのは、日本で初めて新幹線の開業に向けてのことでした。
東海道新幹線の開業とともに確立したアナログ式のATC
1964(昭和39)年に日本で初めての新幹線、東海道新幹線が開業しました。新幹線の開業にあたり、当時の最高速度210km/hでの走行中に地上の信号を運転士が確認することは困難でした。
そこで、レールに制限速度情報を送り、車両側で信号を受信して運転台に制限速度を表示させる「車内信号方式」であるアナログ式のATCが開発されました。
ATCは今まで地上で現示していた信号を車内で表示するものであったので、視認性が悪い地下鉄(暗いトンネルやカーブが多いため)や悪天候においても有効であったため、広く普及していくこととなりました。
以上が簡単なATC開発の歴史になります。ここからはATCの仕組みについてお話しします!
鉄道の安全を守るATCの仕組み
ATCとは鉄道車両が制限速度を自動的に守って走行するための保安装置です。ではどうやって制限速度を自動的に守っているのでしょうか?ここからは
- ATCの動作概要
- 地上装置
- 車上装置
に分けてお話しします!
ATCの動作概要
ATCは従来の信号システムとは異なり、地上に信号がない方式での運転になります。そのため、車内の運転台に制限速度を現示する仕組みとなっています。これを車内信号(キャブシグナル:Cab Signal)と言います。
車内信号に現示された制限速度を超過(オーバー)してしまうと、常用最大ブレーキが動作します。常用最大とは非常ブレーキ以外では最も強いブレーキということです。
ブレーキがかかった車両の速度が制限速度を下回ると、ブレーキは緩解します。この動作を繰り返しながら、停止位置まで減速していくのがATCの動作概要になります。
ATCでは、定められた一定区間ごとに制限速度が決められます。先行列車と区間が空いているほど、制限速度は高くなります。例えば
- 先行列車が2区間先を走っているなら、制限速度は65km/h
- 先行列車が1区間先を走っているなら、制限速度は45km/h
といったイメージです。先行列車との間隔を保つために、自動的にブレーキをかけて速度を調整してくれるのがATCになります。
それでは、どうやって制限速度を決めて車両に信号を送っているのか、仕組みを見ていきましょう!「地上装置」と「車上装置」についてお話しします!
ATCの仕組み「地上装置」と「車上装置」
ATCでは
- 鉄道車両にATC信号(制限速度情報)を送る地上装置
- ATC信号(制限速度情報)を受け取る車上装置
の2つの装置に分かれて作用します。それぞれについてお話しします!
ATCの地上装置とは
鉄道では、線路を一定の区間に分けて、その区間には1列車しかない状態を作ることで列車同士の衝突事故を防いでいます。このような仕組みを「閉塞(へいそく)」と言います。
地上装置では、先行列車がどこにいるかどうか(在線状態)を把握し、後方車両に位置情報と制限速度情報を伝えます。この時どのように情報を車両に伝えているかというと、レールに信号電流を流すことで情報を車両に伝達しています!
以上が地上装置の役割です。続いては車上装置についてです。
ATCの車上装置とは
地上装置によってレールに流された信号電流は、車両に取り付けられた「受電器」という装置で信号を受け取ります。
電気は流すことで、周囲に磁界を発生させるという性質を持っています。これを「アンペールの法則」、または「右ねじの法則」と呼びます。信号電流の発生させた磁界を、受電器のコイルで受信することで車両に信号を伝えています。
コイルには周りに磁界があると電気が流れるという性質があります。これを「電磁誘導」と言います。
※超簡単に説明していますが、詳しくは「ファラデーの法則」について調べてみてください!
受電器で受信した信号情報を車上装置で整理し、運転台に車内信号(キャブシグナル)として制限速度を現示させています。
また「速度発電機」と呼ばれる、鉄道車両の走行速度を把握する装置からの情報をもとに「実際の走行速度」と「制限速度」を比較し
- 制限速度を超過(オーバー)していれば、常用最大ブレーキ
- 制限速度以下であれば、ブレーキ緩解
の動作をさせています。これが車上装置の役割になります。
以上でATCの仕組みについての解説は終了になります。最後に、ATCのデメリットについてお話しします!
ATCのデメリット
ATCでは
- 地上に信号を設置する必要がないので視認性が良い
- 先行列車との間隔を自動で確保できる
ことがメリットでしたが、一方でデメリットもありました。それは
- 運転士の意図とは別でブレーキが動作・緩解してしまう
- 常用最大ブレーキとブレーキ緩解を繰り返すため、乗り心地が悪い
ことでした。ATCの性質上、どうしてもカクカクした運転となってしまい、運転士さんやお客さまにとって非常に乗り心地が悪かったそうです。
車の運転でも急ブレーキして緩めるのを繰り返したら気持ち悪いですよね…
ATCのデメリットを改善するには、より細かい区間で細かいブレーキの制御が必要でした。これらを達成して進化したものが「デジタルATC」になります。
鉄道のデジタルATCとは?運転間隔の短縮と乗り心地向上の技術!
ATSとATCの違い
よく間違えやすいATSとATCの違いは
- 信号機が地上にあるか、車内にあるか
- ブレーキ制御の回数が細かく設定されているか
が大きな違いとなっています。ATSは自動列車停止装置、ATCは自動列車制御装置ということで、どちらも自動でブレーキを制御するための装置です。
ATSは地上に信号機があり、運転士が信号の冒進を防ぐための装置です。ATSでは制限速度情報や非常ブレーキ以外の信号はありません。詳しくはATSとATCの違いについての記事をご参考にしてください。
まとめ:鉄道の安全を守るATCの仕組みを知り、安心して鉄道を利用しよう!
今回は鉄道を安全に運行させるための仕組みである、ATC(自動列車制御装置)についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか?
鉄道はより安全に、より安定的に、より快適に走行できるよう日々技術開発がされています。
普段利用する鉄道の安全の仕組みについて、理解していただけたら幸いでございます。
今回の記事を作成するにあたり、「女性運転士ユウ」さんのYoutubeチャンネルが非常に分かりやすかったので参考にさせていただきました。動画のほうが理解しやすい方はぜひご覧になってみてください!
ATCは山手線にも利用されていて、非常に短い運転間隔の実現にも寄与しています。ぜひそんな山手線の歴史についてもチェックしてみてくださいね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!