こんにちは!今回は鉄道のATS(自動列車停止装置)についてお話しします!
ATSってなに?
ATCとは何が違うの?
こんな疑問にお答えします!
ATSはAutomatic Train Stop Deveiceの略で、日本語では自動列車停止装置と言います。これは鉄道車両の信号冒進を防ぎ、安全に運行させるための保安装置です。
ATSが開発されたおかげで今の鉄道の安全は守られていると言っても過言ではありません。
そんなATSとはどんな装置なのか、ぜひ一緒に学んでいきましょう!
- ATSが開発された経緯
- ATSの仕組み
- ATSとATCの違い
- 進化するATS
電車整備士歴10年の筆者が解説します!
それでは、よろしくお願いします!
ATSとは?開発された経緯について
ATSは鉄道の安全を守るためには非常に重要な装置です。国土交通省の省令である「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」にも、列車を自動で減速または停止させる装置を搭載しなければならないと定められています。
第五十七条 閉そくによる方法により列車を運転する場合は、信号の現示及び線路の条件に応じ、自動的に列車を減速させ、又は停止させることができる装置を設けなければならない。ただし、列車の運行状況及び線区の状況により列車の安全な運転に支障を及ぼすおそれのない場合は、この限りでない。
鉄道に関する技術上の基準を定める省令 第七章 運転保安設備 第一節 信号保安設備より
そこでまずは
- そもそもATSとはどんな装置なのか
- ATSはどのような経緯で開発されることとなったのか
について見ていきましょう!
ATS(自動列車停止装置)とは
ATS(Automatic Train Stop Deveice)、自動列車停止装置は鉄道車両が信号を冒進しないように、運転士の操作にかかわらず自動的にブレーキを動作させて列車を停止させるための装置です。
鉄道では一定区間ごとに区切られた線路区間に複数の列車が入らないようにする、「閉そく」という仕組みで安全を守っています。先行する区間に別の列車が存在する場合は、信号機は「赤」を示すことで列車が進入しないように運転士に知らせます。
しかし、もし運転士が信号に気が付かなかった場合どうなってしまうでしょうか?
列車同士で衝突し、事故が発生してしまいます。
このような事態を防ぐためには運転士の注意力や集中力が必要不可欠ですが、
- 悪天候で信号が見えない
- 運転士が体調不良で意識を失ってしまう
などにより信号を冒進してしまい、重大な事故が発生してしまう可能性があります。そこで運転士のみに依存するのではなく、システム的に信号の冒進を防ぐための装置がATS(自動列車停止装置)になります!
ではそんなATSはどのような経緯で開発されることとなったのか、お話しします!
ATSが開発された経緯
鉄道の歴史は事故の歴史とも言われます。それは過去の事故を繰り返し起こさないために、鉄道の技術や仕組みが進化してきたことを意味します。
ATSが開発される経緯も悲しい事故がきっかけでした。
1962(昭和37)年、当時の国鉄の常磐線、三河島駅構内で列車衝突事故が起こりました。この事故は死者160名、負傷者296名の犠牲を出してしまい、「国鉄戦後五大事故」として数えられています。
事故の概況をお話ししますと、三河島駅には
- 貨物線
- 下り本線
- 上り本線
の3本の線路がありました。三河島事故では3つの線路でそれぞれ衝突が起こり、三重の事故となってしまいました。
- 貨物列車を運転していた運転士が赤信号を見誤ってしまい、信号を冒進して車止めに衝突・脱線し、下り本線に倒れこみます。
- 数秒後、後から来た下り本線の列車が貨物列車に衝突し、上り本線に倒れこみます。この時点では軽傷のお客さまが25名でした。
- その後下り列車に乗っていたお客さまが、慌ててドアコックを用いて車外に降ります。そこに上り本線の列車が進入し、お客さまをはねながら下り本線の列車と衝突しました。
この事故の教訓を活かし
- 信号を冒進させないためのATS(自動列車停止装置)
- 列車の危険知らせる信号炎管、防護無線
の開発・普及が急務とされました。ATSの開発・普及にはそんな悲しい事故の背景がありました。
続いてはATSの仕組みについてお話しします!
ATSの仕組み
ATSによってどのように信号の冒進を防ぐ仕組みになっているのかお話しします!
- ATSの動作概要
- ATSの仕組み
の順番で見ていきましょう!
※今回は説明では基本的にATS-Sx型の説明となっています。
※Sx型とは、鉄道会社によってSN、ST、SWなど呼称が異なるため、総称として使われる名前です。
ATSの動作概要
ATSの動作の概要としては「地上子」と呼ばれる地上から車両に信号を送る装置が肝になります。進入してはいけない閉そく区間(赤信号地点)にさしかかる位置で停止させるために
- 赤信号から距離がある「ロング地上子」
- 赤信号の直前にある「直下地上子」
が設置されています。列車はロング地上子を通過すると、運転室ではキンコンキンコンと警報が鳴ります。この警報が鳴ってから5秒以内に「確認ボタン」を扱うと、警報は止まります。これを「確認扱い」と言います。
運転士が警報が鳴り始めてから5秒以内に確認扱いをしなかった場合、非常ブレーキを動作させます。
その後、直下地上子を通過する際に、信号が赤のままだった場合、非常ブレーキを動作させます。
以上の二重のバックアップシステムによって、列車が赤信号を冒進することを防ぐのがATSの動作になります。
ATSが開発された初期は直下地上子がなく、運転士が確認扱いをした後は運転士の操作に完全に依存する形となっていました。この仕組みでは、確認扱いをした後に信号を冒進してしまうことが可能であり、1988(昭和63)年に東中野では列車衝突事故が発生してしまいました。
そのような経緯から、現在のロング地上子と直下地上子を用いたシステムになっています。これがATSの基本の動作になります。
ではどのようにATSを動作させているのか、その仕組みを見ていきましょう!
ATSの仕組み
ATSでは線路の間に設置された地上子から、車両の床下に搭載された車上子に電波を送ることで、地上の信号情報を受け取っています。
地上子では信号の開通状況に合わせて、停止するべきの情報を送ります。でないと地上子を通るたびに警報が鳴ってしまい、運転士の集中力を阻害してしまいます。ではどのように信号の開通状況に合わせているのかというと、「軌道回路」が重要になります。
鉄道の軌道回路について
軌道とは線路・レールのことです。一定区間で区切られた軌道(閉そく区間)には列車の在線状況をチェックするために電気が流れています。以下の図をご覧ください。
このようにして信号の開通状況を制御しています。この信号の開通状況に応じて、地上子から車上子に対して電波を送っています。
地上子から車上子送る電波について
地上子から車上子には電波を送り、車内の装置に信号の状況を伝えています。この時の電波はロング地上子と直下地上子では、信号が混同しないように異なった周波数の電波を送信しています。
鉄道の整備士の仕事である定期検査においては、地上子の試験機の周波数の設定を行い試験します。
- ロング地上子の周波数で警報ベルが鳴動すること
- 警報ベルが鳴動後、5秒以内に確認扱いを行い非常ブレーキが動作しないこと
- 警報ベルが鳴動後、5秒以内に確認扱いを行わずに非常ブレーキが動作すること
- 直下地上子の周波数で非常ブレーキが動作すること
これらの機能確認しています。
以上がATSの仕組みになります。続いてATSとATCの違いについて簡単にご説明します!
ATSとATCの違い
よく間違えやすいATSとATCの違いは
- 信号機が地上にあるか、車内にあるか
- ブレーキ制御の回数が細かく設定されているか
が大きな違いとなっています。ATSは自動列車停止装置、ATCは自動列車制御装置ということで、どちらも自動でブレーキを制御するための装置です。
ATSは地上に信号機があり、運転士が信号の冒進を防ぐための装置です。ATSでは制限速度情報や非常ブレーキ以外の信号はありません。詳しくはATSとATCの違いについての記事をご参考にしてください。
現在は細かい速度制限を行うATSも開発されています。ここからは進化するATSについてご紹介します!
進化するATS
ATSは時代に連れて進化していきました。停止するべき位置を把握したら、自列車の位置や速度情報、減速性能と照らし合わせて停止するまでの速度パターンを計算して停車させるATSが開発されました。これがATS-Pの誕生です。
ATS-Pについては鉄道のATS-Pとは?進化する保安装置の記事でお話ししておりますので、ぜひご覧いただければと思います。
また、今回ご紹介したATSの前進には打子式と呼ばれるATSもありました。そちらについても機会があれば言及したいと思います。
まとめ:鉄道の安全を作ってきたATSの仕組みについて理解し、安心して鉄道に乗ろう!
今回は鉄道の安全を守るための保安装置、ATSについてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか?
鉄道の歴史は事故の歴史とも言われ、現在のように鉄道は安全な乗り物という認識には多くの尊い犠牲があったことは受け止めなけらばならない事実です。
しかし鉄道は今後もどんどん技術が進化していき、より安全により快適にお客さまを乗せる仕組みが出来ていくことでしょう!
そんな安全の基礎であるATSについてご理解いただけたら幸いです。
その他の保安装置に関しても記事を書いておりますので、合わせてご覧いただければと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!